朝鮮時代の文人ユン・ソンド先生が、全羅南道(チョンラナムド)海南(ヘナム)にあるお寺、大興寺(テフンサ)を訪れたある日、ちょうど通り雨にあったそうです。その時の情景を、彼は詩で残しました。楼閣に上がると水の音が響き、石段に座れば雲が沸き起こる、旅人の足を止めるにわか雨、青い山は詩の題材になるという内容です。その風景があまりにも美しかったので、家に帰るのも忘れ、杖の代わりにお酒の杯を手にしたとも記録されています。今日の最初の曲は、そんな森に降り注ぐにわか雨を想像しながらお聴きになってみてください。スムの演奏で、「パッシングレイン」という曲です。
京畿(キョンギ)の雑歌(チャプカ、ぞうか)というジャンルには、立ったまま歌い踊る「ソンソリタリョン」と、おとなしく座って歌う「チャチャン」の二つの形式があります。チャチャンは、全部で12曲が伝承されていて、「十二の雑歌」と呼ばれます。今日はその中から「平壌歌(ピョンヤンガ)」をお届けします。韓国のことわざに、「平壌の監司も嫌なら仕方がない」というものがあります。どれほど名誉ある役職でも、本人の意思がないと強制できないという意味です。この言葉から、平壌監司という官職が、いかに魅力的だったか分かります。平壌はまず、景色が美しいことで知られていました。乙密台(ウルミルデ)という丘から眺める春の景色、浮碧楼(ブビョンル)という楼閣からの月見など、平壌の八景は詩や絵で記録されています。また、高句麗の首都であり、高麗時代には都の候補地とされたほど文化の中心地でありました。さらに、朝鮮時代には中国と往来する外交使節団が必ず通る要所でもありました。外交使節団は権力があったので、平壌の官吏になるということは、人脈を築く絶好の機会でもあったのです。今度は、カン・ヒョジュさんの歌と、ユン・ソギョンさんのアジェンの演奏で、京畿の雑歌、「平壌歌」という曲をお楽しみください。
平壌は、地理的な特徴から来客が多かったため、歌や踊りに優れた芸者妓生(キーセン)が多い地域でもありました。平壌の妓生は、全国でも最高と称されるほどでした。先ほどお聴きいただいた「平壌歌」は、月仙(ウォルソン)という妓生を題材にした恋の歌です。もうすぐ旅立つ男性は、別れを惜しみ、月仙の家を訪ねました。すると、彼女が出てきて袖のほつれを縫ってくれたという内容です。名の知れた美しい妓生が自分の服を直してくれると、旅立つ男性はさらに切ない気持ちになったことでしょう。それでは、京畿の雑歌、「平壌歌」に続き、今日の最後は、同じく京畿の雑歌の中から、「江原道(カンウォンド)アリラン」という曲をお聴きいただきます。イ・スルギさんのカヤグムの演奏で、お楽しみください。