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ライフスタイル

第718話 教師の権威と「学生人権条例」

#アジュンマの井戸端会議 l 2023-07-25

玄海灘に立つ虹

ⓒ Getty Images Bank
7月18日、ソウル市内の小学校で、20代の女性教師が自らの命を絶つという事件が起きました。韓国では小学校の教師が児童から暴行されるなどの事件が相次ぎ、問題視されていましたが、この事件で、教師の教育上の権威が侵害されている現実が改めて浮き彫りになりました。

かつて韓国では教師の、児童や生徒に対する体罰の問題が深刻だった時期がありました。そうした経緯もあり、児童生徒の人権に関する制度がつくられました。「学生人権条例」と呼ばれるもので(韓国語では大学生だけでなく小学生から高校生まで皆「学生」と呼ばれます)、教育部ではなく市や道の教育庁がつくる自治条例です。自治条例の条例には強制性があり、違反した場合は処罰されます。2010年に京畿(キョンギ)道が最初に制定し、その後、ソウル、光州、全羅(チョルラ)北道、忠清(チュンチョン)南道、済州(チェジュ)、仁川(インチョン)の順に定められています。全国17の市道教育庁のうち7つの市・道でつくられたことになります。これら7つの市や道でつくられた人権条例は全く同じではなく、詳細は異なる部分もありますが、代表的な内容をみますと、妊娠によって差別されない権利や睡眠権の保障などがあります。

冒頭で挙げた事件を機に、こうした内容の学生人権条例が、教師の権威を地に落とす一因になっているという声が強まっていることから、この条例の見直しが検討されています。
教師らは、現在学校では子供たちの人権が強調されすぎており、そのため教師の影響力が失われている状況だと口を揃えます。たとえば、授業中に寝ている生徒を起こしたところ、保護者が、「クラスメートの前で何度も起こされ、恥をかかされた」という通報が教育庁にあったといいます。また、日記の指導をすればプライバシーの侵害だと抗議され、して来なかった宿題を休み時間に終えるよう指示すると情緒的暴力を受けたという苦情が入り、教室での雑談をやめさせれば児童虐待として通報されるなどの事例も報告されています。

教師の権威が深刻に侵害されていることは、統計でも確認することができます。教育部によりますと、この5年間、児童生徒、保護者から暴力を振るわれた教師は1133人に上りました。全国教職員労働組合が去年9月、全国の幼稚園、小学校、中学、高校、特殊学校に勤める教師6243人を対象に行ったアンケート調査でも、回答者の92.9%が、子どもたちを指導する過程で児童虐待で通報されるのではないか不安だと答えています。子どもたちから暴力を受けても、児童虐待で通報されかねないため、なすすべがない状況です。6月30日には、ソウル陽川(ヤンチョン)区内の小学校で、6年生を受け持つ教員が、担当するクラスの男子児童に数十回にわたり暴力を振るわれ、全治3週間の怪我をする事件がありました。この男子児童には情緒障害があったということです。

教育部は、具体的な指導の範囲や方法などに関する基準などを盛り込んだ生活指導ガイドラインをまとめ、今年の2学期が始まる前に学校など現場に配布することにしています。また、韓国政府と与党・国民の力も、26日、学生人権条例の見直しなど教師の人権を保護する対策について議論することにしています。

自ら命を絶った教師は小学校1年生の担任で、去年教師になったばかりでした。児童の保護者からパワハラを受けていたとの声もありますが、原因はまだ明らかになっていません。警察は、亡くなった教師の日記などをもとに原因を調べているところです。

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