ⓒ 김선남, 천개의 바람 きょうは「イチョウの木(은행나무)」という絵本をご紹介します。
この季節、あたり一面を真っ黄色に染めるイチョウの木。ところで、イチョウの木には雄と雌があるのをご存じでしょうか。銀杏の実がなるのが雌の木、実をつけないのは雄の木です。
この絵本は、離れたところに立っている雄のイチョウの木と雌のイチョウの木が、互いの存在を意識するところから、お話が始まります。
では、絵本のページを開いてみましょう。
ⓒ 김선남, 천개의 바람 風が吹きます。
彼女は知っていました。彼がそこにいることを。
あたたかい風が彼女のからだを包みます。
彼女は考えます。
「この風はあのひとにも届いたかしら」
彼は花を咲かせます。彼女に花粉をプレゼントするために。
彼女も花を咲かせ、風が運んでくれたプレゼントを受け取ります。
互いに一歩も近寄れないけれど、二本の木はしばし、ひとつになります。
彼女の花がふくらんで実をつける様子を、彼は遠くから見守ります。
ⓒ 김선남, 천개의 바람 風が吹き、雨が降り、日が差すと
葉っぱは徐々に濃い緑色になります。
緑の葉は木と実をふくよかにします。
ⓒ 김선남, 천개의 바람 やがて涼しい風が吹いてくると
二本の木の葉っぱも実も、染まり始めます。
ぽとり ぽとりと、熟した実が落ちます。
木にとっては別れの音であり、実にとっては出発の音です。
あたり一面、黄金色に染まります。
イチョウの木々がつくった世界です。
ⓒ 김선남, 천개의 바람 また風が吹きます。
木は歌い、葉っぱは踊ります。
葉っぱが散り、葉の散った枝のすきまを風が通ります。
冷たく荒々しい風が木を揺らし、細い枝は折れてしまいます。
でも、この風がいつか止むことを、二本の木は知っています。
ⓒ 김선남, 천개의 바람 風が止み、静かに雪が降ります。
白い雪が枝に積もり、幹に積もり、土に積もります。
二本の木は眠りにつきます。
どこかで、実たちも眠っています
二本の木は、待つということを覚えました。
風は、また吹いてくることでしょう。
という、とても静かなお話でした。
これまでイチョウの木は季節に身を任せてただただ立っているものと思っていました。でも、それぞれの場所に立っている木々は、一歩も動けなくても、互いの存在を知り、風の助けを借りて愛をはぐくみ、命をつないでいるんだということにハッとさせられました。
作者のキム・ソンナムさんは、あとがきにこう書いています。
「木と違って動ける私たちはもっと能動的にみえますが、必ずしもそうではありません。生まれること、誰かと出会うこと、とつぜんの事故や病気などは、避けられない風のように吹いてきます。私もイチョウの木のように、いつか風が止むのを待つことを覚えました」
このお話を読んで、黄金色のイチョウ並木の風景がますます生き生きと輝くように感じられました。