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文化

映画『コンクリートユートピア』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-08-03

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する映画は、オム・テファ監督の『コンクリートユートピア』です。イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンという、豪華な出演陣で、韓国では8月9日公開なのですが、一足先に試写会で見て、インタビューもしてきました。原作は『愉快ないじめ』というタイトルのウェブトゥーンで、大地震で廃墟となったソウルで、唯一残ったファングンアパートの住民たちの物語です。韓国のアパートは日本のマンションに当たるんですが、ファングンアパートという固有名詞で出てくるので今回はアパートという言葉を使います。

〇イ・ビョンホン演じるヨンタク、パク・ソジュン演じるミンソン、パク・ボヨン演じるミョンファはいずれもファングンアパートの住民です。ざっくり言うとヨンタクは住民代表として率いる役、ミンソンはそれについていく役、ミョンファはそれに疑問を持っている役です。というのは、住民たちは団結して生き残るため、ファングンアパートの住民でない人を徹底的に排除しようとします。ミョンファは看護師でもあり、住民でない人もできる限り助けたい。ミンソンとミョンファは夫婦ですが、その点で意見が食い違い、けんかになったりします。
例えば、ミョンファは助けを求めてきた親子を家にかくまうのですが、ミンソンはその親子に貴重な食料を分けるのが嫌なんですね。がんばって手に入れた桃の缶詰をこっそりミョンファと2人で食べようとします。ミョンファはそれに罪悪感を感じ、親子と一緒に食べようとします。やっぱり韓国は「食べ物」なんだなと思いました。極限の状況で食べ物を分ける分けないが、非常に重要な出来事として描かれるんですね。「災害映画と思って見たら、人間の話だった」と感想を述べたら、イ・ビョンホンさんに「よく分かってる」と褒められました(笑)。他人に手を差し伸べると自分や自分の家族にリスクが生じる、そんな状況でどう生きるのか、というのを考えさせる映画でした。


〇試写会の上映前のあいさつでパク・ソジュンさんが「今みたいな暑い夏に撮った」と話していたのですが、映画を見ると凍え死ぬほど寒い冬の大地震で、みんないっぱい着込んで白い息を吐いているんですね。これはどういうことかなと思ったら、白い息は監督によるとCGなんだそうで、口の動きとタイミングを合わせて白い息を見せるのがなかなか技術的に難しかったと話していました。もちろん暑い夏に着込んで寒いふりをして演技する俳優さんも大変だったと思いますが、それよりも感情表現に集中して演じたと話していました。さすがですね。

〇イ・ビョンホンは「ブラックコメディー」と言っていて、深刻な状況の中で真剣な行動なんですが、でも観客としてはくすっと笑ってしまう場面もいくつかありました。現実もたぶんそうで、大災害の渦中にいても、おかしいことは起こりますよね。台本にないディテールを俳優の想像力で演じた部分もあったみたいで、監督は自分は細かい演出はしていないけど、俳優たちが状況を作っていってくれたと話していました。イ・ビョンホンはその筆頭だと思いますが、実力派の俳優たちがファングンアパートの住民として様々な個性を発揮していたのが見どころでした。逆にパク・ソジュンがこれまで演じてきたキャラクターと違って平凡な市民を演じていたのも印象的で、観客にとっては最も等身大のキャラクターであり、倫理観と家族を守りたい気持ちの間で葛藤する、共感できる役柄でした。

〇私はこの映画を見て「排外主義」という言葉が浮かびました。映画の中では同じ韓国人同士、ファングンアパートの住民か否かで線引きをしますが、自国か他国かで線引きして、自国の人は団結して守るけど、他国の人は退けるという態度と重なるように感じました。ソウルでこんな大地震が起こる可能性はほとんどないという意味ではファンタジーですが、その大地震の後に起こる出来事というのは十分現実世界で起こっていることと通じるものだと思います。

〇今年上半期は韓国映画が『犯罪都市3』をのぞいてあまり興行的にパッとしないと話していましたが、7月26日公開の『密輸』が早々に観客数200万人を達成して順調に伸びていて、続いて『非公式作戦』『ザ・ムーン』、そして『コンクリートユートピア』と、大作がポンポンと立て続けに公開され、韓国映画界が持ち直すのか、どうか。暑い暑い夏、映画館で涼もうという人も多いのではないのかな、と期待してます。『コンクリートユートピア』、まだ日本公開の詳細は発表されていませんが、この豪華キャストで日本で見られないということはまずないので、楽しみに待っていただければと思います。

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