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ライフスタイル

絵本「へチ  正義と生命を守る守護神」

#ソウル・暮らしのおと l 2025-01-17

金曜ステーション

ⓒ 임어진 / 오치근, 도토리숲
「ヘチ」という動物をご存じですか。善と悪をさばく守護神とされ、古くから韓半島に伝わる架空の生き物です。景福宮の正門・光化門前には、左右にこのヘチの石像があります。韓国の人々にはなじみ深い伝説の動物。今日は、このヘチにまつわるお話です。

ⓒ Getty Images Bank
世の中が平和だった時代、ヘチは初めてこの地に降りてきました。
青いうろこに覆われた体、脇にはえた翼、頭には輝く一本の角。この固く力強い角で、ヘチは世の中を守っていました。泣いている者にはすぐに駆けつけ、誰かをいじめる者は角で突き払いました。
ヘチがいる限り、人々は安心して暮らすことができました。そして正しいか間違っているかわからないときには必ずヘチに尋ねるのでした。
善良な王さまは、ヘチの知恵を借りました。ヘチは王さまの側で、善悪を裁くのを助けました。

ところが、ヘチを憎む輩もいました。百姓から奪うだけ奪い、世の中を思い通りにしたい将軍の一味でした。
「だれにも知られないように、あいつを始末してしまえ」
ある真っ暗な夜、将軍と部下はヘチの寝床を襲いました。ところが、寝床は空っぽ。空に浮かんでいるヘチの高笑いが聞こえました。
「あいつを殺せ、矢を撃て!」
命令が終わらぬうちに、ヘチの角が将軍の体を突き倒しました。部下たちは慌てて一斉に矢を放ちます。ヘチの体に、無数の矢がささりました。
体中から血を流しながら、ヘチは空高く昇って行きました。
ヘチが闇に飲み込まれると、雨が降りはじめました。激しい雨は降り続き、翌朝になっても世界は真っ暗なままでした。

人々は将軍のせいでヘチが空に帰ってしまったことを知り、怒り、悲しみました。もう誰も弱い者を守ってくれないことでしょう。そして雨は、家も家畜も流れてしまうほど降り続けました。人々は手を合わせて祈りました。
「ヘチ様、どうか怒りを鎮めてください」
情け深いヘチは、人々を見捨てることができませんでした。ようやく雨がやみ、太陽が現れました。
「ありがとう、ありがとう」
人々は喜び、そして、ヘチが空に帰ってしまったことを心から残念に思いました。

そうして、人々はヘチの像をつくり、宮廷の門の両脇に置きました。国の政治を行う者は、このヘチ像の前では必ず馬から降り、ヘチの尻尾を撫でながら気持ちを正しました。
ただし、力を持つ者の中で正しい側につく人は必ずしも多くはありません。人々はヘチを恋しく思いました。

遠い南東の空に光る六つの星。それがヘチ星です。ヘチ星は新しい命が生まれるときには明るく輝きます。そして争いごとや弱いものが苦しんでいるときには、もどかしそうに地上をじっと見降ろしています。

こんなお話でした。
法と正義の象徴のヘチは、新羅時代の役人の服にも刺繍で縫い込まれていました。また、朝鮮王朝で監査や検察の役割を果たした司憲部(サホンブ)の役人がかぶる帽子は、「ヘチ冠」と呼ばれていました。また、水を司り火災から守ることから、庶民の家では台所にヘチの絵を貼ったりもしたそうです。
現在ではソウル市のかわいいシンボルキャラクターになっているヘチ。この絵本の物語から、韓国の人たちに長く親しまれているヘチをより知って頂けたのではないかと思います。今の時代こそ、ヘチに再び降りてきてほしいときかもしれませんね。

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