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文化

哲学書『40歳で読むショーペンハウアー』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2025-02-19

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本はカン・ヨンスの哲学書『40歳で読むショーペンハウアー』です。ショーペンハウアーはドイツの哲学者で、昨年ベストセラーになっていたんですが、なんでかなと思ったら、アイドルグループIVEのウォニョンが読んだということもあって話題になったようです。去年流行った言葉で、ウォニョンの「ラッキービキ」という言葉があるんですが、ウォニョンの肯定的な考え方は「ウォニョン的思考」とも呼ばれています。そのウォニョンが読んだ本として、『40歳で読むショーペンハウアー』が注目を集めたようです。ウォニョンは今二十歳なんで40歳のまだ半分ではあるんですが、42歳の私は著者の想定した読者層の立場で読んでみました。

〇冒頭から「40代というのは夏が終わって秋の初め」とあって、そうか、私も秋に入ってるんだなと、自覚しました。読んでいて、自分の欲求や欲望について知ることが大事なんだなと思ったんですが、欲求、欲望というのは一瞬満たされても、またそれ以上を求めるようになるので永遠に満たされることはないんですね。貧乏なら貧乏なりの、お金持ちならお金持ちなりの満たされない理由があって、それぞれ不満、不幸な状態になるのは一緒なので、そういうことではなく自分の内面の豊かさが幸福度を左右するということです。

〇とはいえ、それは頭で分かってもなかなか難しく、じゃあ具体的にどうするのか? というと、ショーペンハウアーの幸福論は、快楽の追求ではなく、苦痛を減らすことを目指します。例えば歯が痛いというのは、歯が痛くない状態の時に幸せを感じるのではなく、歯が痛くなって初めて歯が痛くない状態が幸せだったと気付きますよね。幸せを感じることを目指すのは難しくて、苦痛を減らす、歯を治療することはできる、ということです。
もっと言えば、苦痛に耐えられる人がより幸せだということで、苦痛を淡々と克服する。同じように病気になっても、病気になったこと自体にものすごくショックを受けて不幸に陥るタイプの人と、淡々と病気を受け入れて、できる治療をするというタイプの人がいると思いますが、後者がより幸せに生きられるということです。

ⓒ Getty Images Bank
〇やりたいことと、やれることを見極めよというのも、確かにそうだと思います。そもそもできないことをやりたいと願っても不幸になるだけですよね。自身の欲望と能力を知るということ。これも簡単なことではないんですが、幸せというのは待っていたら落ちてくるものでなく、それなりの自分の努力、心がけが必要なんですね。
韓国は自殺率がOECD加盟国の中で最も高いんですが、著者は韓国の教育について個性を大事にしていない点を指摘しています。ショーペンハウアーは、価値の基準を他人でなく自分に求めなければならないと主張していて、個性を最大限活かす努力をするべきだと説いています。

〇先日、モデルで作家の前田エマさんと対談をしたんですが、エマさんは2023年に韓国に9カ月暮らして、日本に戻ったらやたら子どもが多いと感じたそうなんですね。それだけ韓国では子どもをあまり見かけなかったということですが、それは単に少子化で韓国の子どもが少ないということだけでなく、多くの子どもが塾に通っているので街中で見かけないということだと思います。世界的に見ても韓国ほど子どもたちが塾に通う国もそうそうないんじゃないかと思うんですが、塾に通うのが悪いわけでなく、それが個性を伸ばす方向であってほしいと思います。

〇ショーペンハウアーはインド哲学の影響を受けているそうで、実は私の母はヨガの先生を長くやって、インド哲学も勉強していたので、なんとなく母が言っていたことと似ているなあという感じもしながら読んでいました。それは死生観、宇宙観のようなものですが、身近な人が亡くなることが増えた最近、哲学を学ぶことの意味がだんだん分かってきたような気がします。この本は日本語訳は出ていないようですが、日本でもショーペンハウアーについての本はたくさん出ているはずなので、これを機に、ショーペンハウアーに今後の生き方のヒントをもらうのもいいかもしれません。

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