「非常戒厳」を宣言し、内乱罪を首謀した疑いで逮捕、起訴された尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の釈放を認めた地方裁判所の決定に対し、検察が即時抗告を断念したことについて、沈雨廷(シム・ウジョン)検察総長は、「適法な手続きによるもの」と強調しました。
ソウル中央地方裁判所が尹大統領の釈放を認めた決定を受け、検察の特別捜査本部は「即時抗告すべきだ」と主張しましたが、最終的に検察は即時抗告を行わず、尹大統領を釈放する決定を下しました。
これを受け、この決定を主導したとされる沈検察総長に対し、最大野党「共に民主党」を含む野党5党は辞任を要求しており、辞任しない場合は弾劾訴追を進める方針を示しています。
こうした動きについて、沈総長は10日午前、出勤時に記者団の質問に答え、「適法な手続きの原則と信念に基づいて決定を下した」と述べました。また、野党の辞任要求についても、「今回の決定が辞任や弾劾の理由になるとは考えていない」と反論しました。
さらに、拘束取り消しに対する即時抗告を断念した理由については、「即時抗告をめぐり、すでに憲法裁判所が憲法に反するとの判断を2回下しているため、過去の判決を尊重した」と説明しました。
「拘束取り消し」と類似している「保釈」や「勾留執行差し止め」に対する即時抗告について、憲法裁判所はそれぞれ1993年と2012年に違憲判決を下しています。
検察が即時抗告をすると、被告人の拘束が続く仕組みになっているため、裁判所の拘束取り消しの決定を事実上、無意味にする権限を検事に与えてしまう形になり、憲法が定める「令状主義」の原則に反する恐れがあるとして今回の判断にいたったものと見られます。
「令状主義」とは、拘束などの強制的な処分を行う際、基本的人権を守るために、裁判官が事前に令状を発行することを原則とする考え方で、今回の尹錫悦大統領の釈放に関する判断でも、「令状主義」の観点が影響を与えたとみられます。