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文化

近代韓国を代表する詩人、尹東柱の生涯と文学世界

2013-05-21



「死ぬ日まで 天を仰ぎ / 一点の恥じることなきを / 葉あいを縫ってそよぐ風にも / 私は心を痛めた / 星を歌う心で / すべての死にゆくものを愛しもう / そして私に与えられた道を / 歩み行こう / 今宵も星が風にむせび泣く」

これは近代韓国を代表する詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)の代表作、「序詩」です。この尹東柱をモチーフにした公演「尹東柱、月を射る」が5月6日から12日まで、ソウルにある「芸術の殿堂」で上演されました。日本によって植民支配されていた時代に青春を送った尹東柱は口数が少なく、いつも思索にふけっている青年だったといいます。尹東柱は行動で自分の志を示すタイプの独立運動家ではありませんでした。しかし、その詩の世界からは祖国の独立を願う情熱がひしひしと伝わってきます。尹東柱の詩にはささやきのようなやさしい響きがあって、韓国人なら誰でも彼の作品を口ずさむことができるほど親しまれています。

「尹東柱、月を射る」はこれまでのミュージカルとは少し違う、近代韓国を素材にした歌舞劇を作ろうという企画から生まれた作品です。ミュージカルに比べて韓国的な要素をたくさん取り入れていかにも韓国らしい公演を作るため、タイトルにもミュージカルという言葉を使わず、歌舞劇「尹東柱、月を射る」としています。

「尹東柱、月を射る」の舞台には1930年代のソウルの街並みが再現され、尹東柱が現在の延世(ヨンセ)大学である延禧(ヨンヒ)専門学校文学科に通っていた1938年から、治安維持法違反の疑いで逮捕され、獄死した1945年までを背景にしています。物静かで控え目な
尹東柱の内面の世界は青い照明と月で表現されています。公演の始め、舞台に浮かんでいる月は三日月です。しかし、日本の植民地となった祖国に対する尹東柱の葛藤が大きくなるにつれて月は膨らみを増し、尹東柱の死とともに崩れ落ちるのです。歌舞劇「尹東柱、月を射る」は去年に次いで2度目の公演ですが、毎回9割の客席が埋まるなど、話題を集めています。



去年の7月、ソウルの都心、鐘路区(チョンノグ)青雲洞(チョンウンドン)に尹東柱文学館がオープンしました。尹東柱は1938年、延禧専門学校に通っていた時、鐘路区で独り暮らしをしていました。彼は毎朝、仁王山(インワンサン)を歩きながら「序詩」をはじめ、「星を数える夜」、「自画像」などの数々の作品を書き残しました。彼が歩いたとされるルートに沿って尹東柱詩人の丘が作られていて、去年の7月、尹東柱文学館もオープンしました。詩人の丘を歩いていると尹東柱の詩が刻まれた詩碑などがあって、彼の文学世界を垣間見ることができます。

浄水場からより高い配水池に水を上げるためのポンプやタンクもあった施設を改修して作られた尹東柱文学館は白いペイントが塗られた素朴な建物で、控え目な性格だった詩人、尹東柱のイメージと似合っているような気がします。第1展示室は機械室だった所です。さまざまな作品を書き残したソウルでの大学時代や留学先の日本でハングルで詩を書いていたことが発覚し、治安維持法違反の罪で独房で獄死するまでの過程など、尹東柱の人生を物語る写真や肉筆の原稿などを展示しています。展示室の中央には尹東柱の生家を復元する過程で見つかった井戸の一部が展示されています。尹東柱は「自画像」という詩で、井戸に自分の姿を映し、内面の世界を見つめています。詩を書いたのはソウルで大学に通っていた時ですが、故郷の家にあった井戸は彼の文学世界において大きな意味を持っているとされています。

第1展示室を出たところにある第2展示室は小さな庭園のような空間です。ここは水を貯めていたタンクだった所で、天井だった部分を取りのぞいてあるため、上を仰ぐと、四角い井戸の中にいるような気分になります。上を仰ぐと、ぽっかりと空いた四角い穴から空、雲が見え、暗くなると星も見ることができます。どれも尹東柱の詩に登場するテーマで、その文学世界に触れてみることができます。第3展示室も水を貯めていたタンクだった所ですが、ここは小さな窓が一つあるだけで天井はそのまま残されているため、ドアを閉めると暗くなります。1945年2月、尹東柱が息を引き取った福岡刑務所の独房を象徴する空間で、尹東柱の生涯と作品を紹介する映像を見ることができます。

近代韓国を代表する詩人、尹東柱の足跡をたどっていくとその生涯と作品から、忘れかけていた純粋な気持ちと、自分を振り返ることの意味について考えることができます。

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