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文化

映画「ポーランドへ行った子どもたち」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-04-07

玄海灘に立つ虹


本日ご紹介する映画は、チュ・サンミ監督の「ポーランドへ行った子どもたち」というドキュメンタリー映画です。韓国では2018年に劇場公開されたんですが、日本でも6月に公開されるそうです。朝鮮戦争の戦争孤児が、かつてポーランドへ送られていたという話なんですが、現代の脱北者の問題とも重ね合わせた作品になっています。朝鮮戦争の戦争孤児は北朝鮮からポーランドへ1500人ほど送られていたそうですが、わりと近年までその事実が韓国では知られていなかったようです。


まず監督のチュ・サンミさんといえば、俳優で知られているんですが、映画では「接続 ザ・コタクト」や「気まぐれな唇」、「誰にでも秘密がある」などに出演していて、ドラマもたくさん出ていたんですが、出産・育児を機に俳優としては長く休んでいて、最近また「トレーサー」というドラマに出て、久々のドラマ復帰が話題になっていました。一方で俳優として休んでいる間に大学院で演出を学んで短編映画を撮ったり、今回紹介する「ポーランドへ行った子どもたち」を撮ったりしていたんですね。


チュ・サンミ監督はそもそも戦争孤児の劇映画を作るつもりだったんですが、劇映画のためにオーディションを行ったり、ポーランドへリサーチに行ったりした過程がドキュメンタリー映画「ポーランドへ行った子どもたち」で描かれています。オーディションには脱北者、北朝鮮から韓国へ逃れて来た学生たちがたくさん参加し、トラウマを抱えながらも演技に挑戦することで一歩前に進もうとする姿に希望も感じました。その中でイ・ソンという女子学生がいて、イ・ソンさんとチュ・サンミ監督が一緒にポーランドへリサーチの旅に出ます。


イ・ソンさんは一見明るい、はつらつとした若者ですが、旅の途中、心を閉ざす場面もありました。チュ・サンミ監督は、劇映画を作る前に出演する脱北者の若者たちについて知りたいという思いがあったわけですが、なかなか心を開いてもらえず困ったそうです。イ・ソンさんは北朝鮮から中国を経て韓国へ来ていて、中国でもかなりつらい経験をしているようなんですが、やっと行き着いた韓国でも疎外感を感じていたようです。「南北が統一したら韓国が損する」という韓国の人の言葉に傷ついたり、同じ民族なだけに、その疎外感は大きかったと思います。それがそのままチュ・サンミ監督にも向けられたのかなと思いました。


そんなイ・ソンさんの心が再び開くのは、ポーランドの元教師たちとの出会いを通してでした。教師たちは戦争孤児を数年間預かった後、子どもたちが北朝鮮に戻ることになって、生き別れになったんですね。わが子のように育てた子どもたちとの突然の別れはポーランドの教師たちにとっても受け入れがたいものだったと思います。北朝鮮出身のイ・ソンさんを見て、子どもたちの思い出と重なったようでした。チュ・サンミ監督には何度かお会いして話を聞いたんですが、「傷の連帯(상처의 연대)」という言葉を繰り返していました。朝鮮戦争の戦争孤児は1950年代の話ですが、「傷の連帯」という意味で現代の脱北者の話ともつながっているんですね。


「ポーランドへ行った子どもたち」は韓国でドキュメンタリー映画としてはかなり多い観客数5万人を超えるヒットとなり、日本でも大阪アジアン映画祭、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで上映されたんですが、やっと劇場公開されることになりました。最近のウクライナからの避難者を受け入れているポーランドのニュースを見ると、受け入れ国としてのポーランドという点で重なる部分があり、今公開する意味がある映画だと思います。劇映画の方はコロナの影響もあってまだ撮影に至っていないようなんですが、監督は撮るつもりだと言っているので、それも楽しみに待ちたいなと思います。

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