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文化

映画『ベイビー・ブローカー』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-07-07

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する映画は、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』です。カンヌ国際映画祭で主演のソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞し、世界の注目を集めましたよね。韓国では6月上旬、日本で6月下旬に公開され、すでに見た方もたくさんいるかなと思います。

私は韓国の試写会後に会見があってそこで監督や俳優の話を聞き、別途、助監督にもインタビューしたので、今日はその内容も含めてお話ししたいと思います。


〇まずは是枝監督、会見の冒頭のあいさつで「この映画にとって最高のご褒美をもらった」と話していました。作品賞よりも監督賞よりも、ソン・ガンホさんの受賞がうれしかったようです。ソン・ガンホさんが演技がうまいのはよくよく知っていますけども、見たらやっぱりさすがだなと思いました。特に映画の後半で娘と話しながら見せた、うれしさと悲しさと情けなさと、いろんな感情が入り混じったなんとも言えない表情。私はここで涙があふれました。


〇助監督は、武田さんもよく知っている藤本信介さんという韓国在住通算21年、日韓のかかわる映画24本で助監督や通訳を務めたという方です。私は藤本さんがパク・チャヌク監督の『お嬢さん』の助監督だった時に初めてお会いして、公私ともに会ったり連絡する機会がちょくちょくあるんですが、今回の撮影はとにかく楽しかったそうです。「2ヶ月半、ロードムービーを体感しているみたいだった」と話していました。『ベイビー・ブローカー』は釜山から出発し、カンヌン、ソウルまで行くロードムービーでもあるんですが、撮影もほぼ映画の順番通り撮って、まさに俳優、監督、スタッフみんなで合宿のようだったということです。


〇映画は、赤ちゃんポストをめぐる物語。韓国ではベイビーボックスと言うみたいです。何かの事情で子どもを育てられない人が、匿名で赤ちゃんを預ける所です。是枝監督は『そして父になる』を撮った時にリサーチしていた中で、熊本の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」という赤ちゃんポストに関心を持って、さらに調べていたら韓国にも似たような取り組みがあると知ったそうです。預けられる赤ちゃんの数が日本よりも韓国の方が圧倒的に多いと話していました。それとは別に、以前からソン・ガンホさんはじめ韓国の映画人と一緒に映画やりたいねという話があったようで、頭の中にソン・ガンホさんが神父姿でベイビーボックスから笑顔で赤ちゃんを抱きあげるワンシーンが浮かんだそうです。ソン・ガンホとカン・ドンウォンはベイビーボックスに預けられた赤ちゃんを密かに売る「ベイビー・ブローカー」の役なんですが、是枝監督は「善悪の同居しているような存在としてのソン・ガンホさんのイメージがこの映画のスタートだった」と話していました。


〇ソン・ガンホ、カン・ドンウォン以外にも、イ・ジウン(IU)、ペ・ドゥナ、イ・ジュヨンと、豪華キャストでしたが、だからといって派手な作り方をしないのは是枝監督らしくていいなと思いました。イ・ジウンは、赤ちゃんをベイビーボックスに預ける未婚の母の役、ペ・ドゥナとイ・ジュヨンはベイビー・ブローカーを現行犯逮捕するために追跡する刑事の役でした。赤ちゃんを預けた母やブローカーが悪者、刑事が正義の味方ではなく、だんだん善悪の構造は崩れていきます。子育てを放棄するのは果たして母親だけの責任か、その背景にあるもっと根本的な問題、子どもや母親を孤立させないために何ができるのか、それは観客としては、主にペ・ドゥナが演じたスジンの変化を通して考えさせられました。助監督の藤本さんも「スジン=観客であり、子どもを取り囲む社会の視線だと思う」と話していました。


〇イ・ジウンは歌手として人気のIUですが、今回、すごいスラングをはくシーンがあって、会見での話によると、台本通りでなく自分なりに考えたものだったようです。なかなかの迫力でした。ソン・ガンホさんいわく、そのスラングをはいた後の場面で、車の後部座席に座ったイ・ジウンが不機嫌極まって前の座席を蹴るんですが、これもアドリブだったそうで、ソン・ガンホもカン・ドンウォンも本当にびっくりしたと話していました。この2人のビクッとした姿、演技じゃなかったんですね。俳優たちの個性あふれる演技も含め、ぜひ、いろんな角度から『ベイビー・ブローカー』を楽しんでもらえるといいなと思います。



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