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文化

映画『もしかしたら私たちは別れたかもしれない』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-07-06

玄海灘に立つ虹


本日ご紹介する映画は、ヒョン・スル監督の『もしかしたら私たちは別れたかもしれない』です。ちょっと長いですが、原題そのままです。大学時代から付き合ってきた30代の男女の別れ。イ・ドンフィとチョン・ウンチェ主演で、二人とも好きな俳優なんですが、倦怠期を迎えた微妙な関係をリアルに演じていました。

二人は同棲しているんですが、イ・ドンフィ演じるジュノは公務員試験を受験し続けていて、チョン・ウンチェ演じるアヨンが養っている形です。韓国では就職難というのもあって公務員試験が人気で、私の周りでも公務員試験を何年も受験し続けている人、けっこういます。本当に公務員になりたくてがんばっている人もいれば、とりあえず公務員試験を準備しているフリをして現実逃避している人もいるみたいなんですが、ジュノはどうも後者のようです。アヨンは美術の道をあきらめて不動産会社に就職し、ある意味犠牲になってジュノの生活を支えているのに、ジュノは勉強しているフリをして友達とゲームをするような、将来が不安な感じです。そのダメっぽい感じがイ・ドンフィにぴったりで、ああ、こういう人いるいると思いながら見ました。ほんとにやる気のない目だなあと思ったら、監督のディレクションで目をしっかり開けないで薄く開けるように言われたんだそうです。絶妙なディレクションだったと思います。

アヨンはそんなジュノに疲れ切ってしまいます。アヨンは不動産の仕事をしているので、夢のようなマイホームを見学する顧客たちを見て、恋人を養うばかりで結婚できない自分の境遇と比べてしまうんですね。ジュノもまた、なかなか試験に受からない自分のことを恥ずかしがるアヨンの態度に悶々とします。お互いに気持ちは残っているんだろうけども、けんか別れしてしまう。2人のけんかがしょうもなくて、アヨンがジュノが食べているラーメンを一口ちょうだいと言っていっぱい食べたとか、どうでもいいことなんだけど、たぶんお互いに根底に不満を抱えているからこじれちゃうんでしょうね。

チョン・ウンチェは顔立ちが高貴な感じで、そういう役が多かったと思うんですが、今回の疲れた30代の役も意外にはまっていました。
別れてそれぞれ新たな異性にも出会うけどもまだ心はきっちり整理できていない。それで『もしかしたら私たちは別れたかもしれない』という曖昧なニュアンスのタイトルなんですね。それぞれ、まったく正反対のタイプの異性に出会い、今度はうまくいくかと思いきや、そう一筋縄ではいかないのが人生ですよね。このあたりは映画を見て確認してもらえればと思います。

ヒョン・スル監督はこの作品が長編デビュー作で、リアルに感じるのは、監督自身の経験が映画の出発点になっていたそうで、実際に偶然、元彼女とばったり再会したことがあったらしく、その時の感情を映画として表現したくなったそうです。そういう普通の、みんなが経験していそうな感情がよく表れた映画でした。例えば、ジュノの新しい彼女は、最初ジュノに「好きなものを好きな時に食べればいい」と言っていたんですが、少し時間がたつと、「ジャジャン麺が食べたい」というジュノに「チャンポンにして」と言うようになります。アヨンとジュノがラーメンでけんかしたのと同じ文脈で、何をどう食べるか一つで2人の関係が表れていました。

韓国は2022年の出生率が0.78と驚異的に低い数字になって、少子化がいよいよ深刻なんですが、実際、日本から韓国へ留学している20代の何人かに聞いたら、日本では周りで結婚して子どもを産みたいと思っている友達がまあまあいるけど、韓国ではみんな結婚しないと言っていると、驚いていました。韓国の若い人たちが結婚を望まなくなっている、というのの様々な背景の一つは就職難であり、不動産の高騰なんですが、そのいずれも出てくる映画なだけに、現実社会をそのまま映しているようにも感じました。日本では8月公開ということなので、ぜひ、等身大の今の韓国を映した恋愛映画、見ていただければと思います。

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