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文化

エッセイ『死にたいけどトッポッキは食べたい』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-08-17

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本は、ペク・セヒのエッセイ『死にたいけどトッポッキは食べたい』です。韓国では2018年に発売されて、50万部を超えるベストセラーとなっています。韓国でも日本でもよく売れているというのは聞いていたのですが、最近、この本に救われたと、強く勧める方がいて、一度読んでみようと手にとってみました。表紙のイラストもゆるーい感じで、「そんなにがんばらなくても大丈夫」という雰囲気のエッセイがよく売れるのは、みんな、疲れてるんだな…という感じがします。

ⓒ 백세희
〇著者のペク・セヒさんは1990年生まれの女性で、長く精神的な疾患で悩んでいて、ある精神科の医師との対話を中心に書いたのがこの『死にたいけどトッポッキは食べたい』です。ユニークなタイトルですが、セヒさんの一番好きな食べ物がトッポッキなんだそうです。セヒさんの疾患はものすごく深刻なものではなく、時々憂鬱な気分になるという類のものですが、そんな憂鬱な気分でもトッポッキは食べたくなるんですね。最近見たドラマで、屋上から飛び降り自殺しようとしている主人公の女の子が、おじさんが屋上でジャジャン麺を食べているのを見て自殺をやめるというシーンがあって、なんとなく通じるものがあるなと思いました。ジャジャン麺食べてる人がいる前で飛び降りる気にならないですよね。

〇医師との対話を読んで感じたのは、自分の状態が実は自分でよく分かっていないものなんだなということで、対話の中からセヒさんが気づいていく過程がよく見えました。自分を知るということがまず大きな第一歩、それだけでもかなり気持ちが楽になるみたいです。
セヒさんは高校生のころから憂鬱な気分を感じるようになったそうです。자존감という言葉を韓国でよく使いますが、日本語でいうと、自己肯定感が近いかなと思います。자존감、自己肯定感が低いのは、セヒさんはおそらく家庭環境によるもの、と話しています。幼い頃からお母さんがいつも「うちは貧乏だ」と口癖のように言い、両親がよくけんかをして、家庭内暴力もあったようです。
私も家庭環境は良かったわけではないんですが、自己肯定感が低いと感じたことはなくて、振り返ってみると、母の存在が大きかったなと思います。母は基本的にいつも私に肯定的な言葉をかけてくれて、意見が食い違うことはあっても、自分が否定されたと感じたことはなかったな、と思います。親から受ける影響って本当に大きいですよね。

〇読み進めると、家庭環境だけじゃないんだろうなというのも感じました。セヒさんはアトピーで、肌がかさついたり赤くなったり、というのもあって、小中学生の頃に外見を理由にいじめられた経験があり、友達と深く付き合うことが難しくなったようです。
読んでいて感じるのは、コンプレックスに感じることが多いことで、それは他人との比較によるものなんですが、例えば映画サークルのメンバーが高学歴だというのを知って、自分の映画の感想は無視されるのではと考えるんですね。映画の感想と学歴と、あまり関係ないように思うんですが、何でも他人と比べて自分が劣っていると思い込む傾向があるみたいです。
大事なのは他人に依存しないということかなと思います。他人はそもそも自分の思い通りにならないものなので、他人は他人、自分は自分、と切り分けること。医師からセヒさんに様々な助言があるのですが、その一つは「逸脱」でした。思ってもみなかったことに挑戦することを勧めます。そしてセヒさんが試した逸脱の一つは、ヒッピーパーマでした。無造作なパーマで、韓国で数年前からはやってるんですが、本人も気に入って、周りにも好評で、逸脱に成功したようです。

〇医師と対話を重ねながら、セヒさんはだんだん自由になっていきます。自分でこうでなければいけないという枠を決めてしまって、そこからはみ出ることに苦しんでいたのが、そもそもそんな枠を決める必要はないという医師の助言によって、変わっていくのが印象的でした。自分を解放していく作業なんだなと感じました。
対話形式なので読みやすく、私はどうかなとか、私の周りにもこういう人いるな、などと思い浮かべました。親しかった友達のなかで、ある時から急に私の言動一つ一つを否定的に受け取るようになって、悪気なく言ったこと、したことが全然違う伝わり方をして戸惑ったことがあったんですが、なんとなく、この本を読んで当時の状況がその友達の立場から見えたような気もしました。
死にたい、とまではいかなくとも、憂鬱だ、と感じている方、コンプレックスに悩んでいる方、自分をいたわってあげるためにも、『死にたいけどトッポッキは食べたい』、読んでみるのはいかがでしょうか。

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