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文化

映画『密輸』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-09-07

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する映画は、リュ・スンワン監督の『密輸(밀수)』です。この夏一番のヒット作となりました。まだ上映続いていますが、9月初めの時点で観客数500万人を超えています。リュ・スンワン監督といえばアクション映画の達人で、これまで主人公はほぼ男性だったんですが、今回の主演はキム・ヘス、ヨム・ジョンアという女優2人。キャスティングを聞いた時から果たしてどんな映画なのか気になっていたんですが、2人は海女さんの役で、今回もしっかり斬新なアクションを見せてくれました。

〇時代背景は1970年代。密輸と海女さんという組み合わせはちょっと意外な気もしますが、船の上で密輸品をやりとりすると見つかりやすいですよね。なのでいったん海の底に密輸品を落として、それを海女さんたちが後で回収するという方法でした。実際にそういうことが行われていて、電化製品や金(きん、ゴールドバー)などが密輸されていたそうです。電化製品は多くは日本製でした。映画ではグンチョンという港町が舞台になっていましたが、モデルになっているのは群山(グンサン)のようです。というのも、リュ・スンワン監督が群山の博物館で密輸に関する資料を見たのが、この映画のきっかけだったそうで、さすが、『モガディシュ』も実話がもとになっていましたが、映画の素材を見つけるセンスが素晴らしいですね。

〇映画の冒頭では海女さんたちは普通にアワビなどの貝をとっているんですが、海辺にできた工場の影響で海水が汚染され、貝が売り物にならず、生活に困るんですね。そこに密輸の提案が入ってきます。当初はどんどん儲かるんですが、密輸を取り締まる税関に見つかって、一斉に逮捕されてしまう。この時、キム・ヘス演じるチュンジャだけがうまく逃げて、みんなからチュンジャが密告したのではと疑われます。
『モガディシュ』に続いて出演したチョ・インソンは密輸王の役で、グンチョンから逃げてソウルで暗躍していたチュンジャを利用し、グンチョンで密輸取引を始めようとするのですが、グンチョンではパク・ジョンミン演じるチャンドリが密輸を牛耳っている。そうそうたる俳優たちで、それだけでも見ていて楽しめました。


〇『モガディシュ』では終盤のカーアクションが圧巻でしたが、今回の『密輸』は終盤の水中アクションが見どころでした。海女さんたちと、海女さんを捕まえようとする男たちの戦いでしたが、水中での演技、俳優さんたち大変だっただろうと思います。とにかく、キム・ヘス、ヨム・ジョンアをはじめ、女優たちの迫力。水の中でのアクションってすごく生々しい感じで、っていうのは動きがどうしてもスローになるのでよく見えるんですね。CGでいろんなことが表現できるようになったからこそ、こういう体当たりの俳優たちの演技がますます貴重で、新鮮に感じるんだなというのも実感しました。

〇密輸というダークな世界を描きながら映画全体が軽快な感じがするのは、音楽の力が大きかったと思います。70年代はまだ私は生まれてないですが、なんとなく懐かしいような、ちょっとダサい感じの音楽が時代を感じさせて、ぴったりでした。クレジットで音楽監督まで確認することはあまりないんですが、見ていたら「チャン・ギハ」と出てきて、思わず、おおおおって声が出そうでしたが、チャン・ギハはシンガーソングライターで、映画の音楽監督を務めるのは初めてなんですね。音楽監督経験ゼロのミュージシャンにオファーするリュ・スンワン監督。このチャレンジ精神が、毎回作品の斬新さにつながってるんだなと思いました。

〇日本公開の情報はまだですが、間違いなく公開されるとは思います。『モガディシュ』の時は日本公開時、リュ・スンワン監督にインタビューさせてもらったので、今回も日本公開時にお話聞けたらいいなと思ってます。リュ・スンワン監督はすでにたくさんの作品を作って『ベテラン』など大ヒットもしてますが、デビューが20代だったので、実はまだぎりぎり40代なんですね。この先もまだまだリュ・スンワン監督作が見られると思うと楽しみです。とりあえず『密輸』、世にもまれな海女さんのアクション映画、ぜひスクリーンで見てもらいたいと思います。

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