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文化

映画『道の上の金大中』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2024-01-04

玄海灘に立つ虹

〇2024年新年最初にご紹介する映画は、ミン・ファンギ監督の『道の上の金大中(길위의 김대중)』です。金大中大統領のドキュメンタリー映画で、今年は生誕100周年の記念の年だそうです。ちょうど誕生日が1月ということで、韓国では1月10日公開なのですが、私は試写会でちょっとお先に拝見しました。2時間の映画なんですが、とても2時間に収まらない波乱万丈すぎる人生で、映画は1987年までが描かれていました。87年と言えば、映画『1987、ある闘いの真実』(2017)でも描かれましたが、6月民主抗争を経て大統領直接選挙制を実現させたという年でした。金大中さんが大統領に就任するのはもっと後の98年ですが、金大中さんと言えば民主化の象徴でもあるので、87年というのはそういう意味で一つのクライマックスでした。


〇何よりも印象的だったのは、「民主主義」にこだわったのは、国民を一番に考えていたということで、大統領になりたいという政治家の野心よりも、国民が主人公の国を作るという情熱。軍事政権にどんなに弾圧されようと、その信念で何度も立ち上がったということがよく伝わってきました。
その最初のきっかけは、朝鮮戦争だったようです。朝鮮戦争の最中に捕まって今日明日にも処刑されるかもしれない、という時に戦況が変わって奇跡的に助かったのですが、当時の政治家に幻滅したことと、平和な国を作りたいというのがベースになったようです。当時は李承晩政権でした。金大中さんは後に軍事政権によってアカ(共産主義者)に仕立て上げられますが、実は朝鮮戦争中は人民軍に右翼とみられて、捕まっていたそうです。正反対ですが、共産主義者でも右翼でもない、というのが事実です。
このように 捕まえる側の立場によって 都合よく右とも左とも判断されてしまうことについて、どう感じられましたか・・・?

〇日本との関連では、73年、中央情報部(KCIA)が東京のホテルから金大中さんを拉致した事件も出てきました。この時も本当は殺されるところだったのですが、ぎりぎりのところで助かります。当時は朴正煕政権でしたが、ある意味、朴正煕大統領が宿敵として金大中さんを有名にさせたという側面もあると思います。2人が大統領選で戦ったのは71年ですが、90万票差で朴正煕大統領が勝ちました。金大中さんの人気は朴正煕大統領にとって脅威だったんですね。
朴正煕大統領は79年に暗殺されますが、これについては、金大中大統領は民主化は国民の力で実現するものであって、暗殺によってなされるべきではないと、冷静に語っていました。平和的に民主化を実現するということにこだわっていました。
ご本人も 何度も命の危険にさらされたわけですが、
このことに関しては 何かご本人のお話がありましたか?


〇映画は本人の肉声や、関係者のインタビューなどで構成されていて、これまで未公開だった映像もありました。私が、え、こんな映像まで?とびっくりした一つは、米国への亡命を説得するシーンで、刑務所の中で妻の李姫鎬さんが金大中さんに病気の治療のために渡米することを勧めるんですね。最初は拒むんですが、結局亡命することにします。おそらく当局が証拠として撮ったんだろうと思いますが、こういう映像が公開されることもあるんだと、驚きました。
おかしかったのは、亡命の条件として、当時の全斗煥政権側は政治活動をしないことを求め、金大中さんはしぶしぶ承知するんですが、結局亡命先の米国で約2年の間に150回も講演したそうです。あれ、治療は?って気もしましたが、本当に情熱的に、その時々、自分ができるすべてのことをやった人だったんだなと、思いました。

〇私は個人的には政治家以前の金大中さんについてはほとんど知らなかったので、実は海運会社を作って成功していたということに、ああ、なるほどなと思いました。大統領になってから、IMF危機直後の韓国経済を立て直し、その一つは文化政策、文化を基幹産業に据えて、今のような韓国の映画やドラマ、K-POPが世界を席巻する下地を作ったこと、それだけでなくIT関連でも積極的に政策を打ち出して韓国をIT強国にしたということも、もともと事業家としての素質があったんだなと思いました。
このあたりは実際の功績に比べて 印象の薄い部分だと思いますので、
やや強調するような感じでご説明いただいてもよさそうです。


〇生誕100周年ということですが、日本植民地時代に生まれ、朝鮮戦争を経験して政治家を目指し、軍事政権下で民主化のために何度も死の危険にさらされながらもあきらめなかった金大中大統領の人生は、まさに韓国の現代史そのものだと思いました。先月ご紹介した『ソウルの春』ともつながる部分があり、韓国の民主化について知りたいという方にはぜひ見てほしいと思います。日本でも公開される見込みというのは聞いているのですが、まだ確定ではなく、「見たい」という声がたくさんあれば、それも劇場公開への力になると思います。

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